個別化医療
- 2020.05.20
- 化学
こんにちは。
個別化医療という言葉を聞いたことはありますか?
個別化医療は、テーラーメイド医療とも言われ、個々の患者の治療において、どのような薬物を選択するか、投与量をどの程度にするか、などを決定する際に、様々な指標で測定・判定される個人差を重視することを指す包括的な呼び方です。最近では、患者・患部細胞のゲノム情報、遺伝子発現情報、その他のバイオマーカー情報から、投与する薬物の作用・効果を事前に予測することを意味するようになりました。
これをすることで、薬物の効果をもたらす対象患者を選別でき、治療効果を高められるとともに、医療費の削減も期待できます。さらに、新薬開発に個別化医療を導入することにより、開発の成功確率も高めることができます。
遺伝子多型のある薬物受容体や標的分子はさまざまあり、スルホニル尿素受容体、アドレナリンβ2受容体、VKORC1、シトクロムP450、TPMT、UGT、DPD、NAT2、MDR1、OATP1B1などがあります。今日は特にシトクロムP450について話していこうと思います。
広範な生体異物の代謝に関わるシトクロムP450(以下P450、CYP)のほとんどに遺伝子多型があることが明らかにされています。この変異には、遺伝子そのものを欠損する、全欠損型もあります。さらに、P450分子種には酵素活性の著しい低下をもたらす遺伝子変異もあります。この遺伝的な差異が、薬物の体内動態の個人差に大きな影響を及ぼしている可能性があるのです。
例えば、CYP2D6は、塩基性薬物(イミプラミン、コデイン)の代謝に関与しています。欧米人では、この遺伝子の変異に起因したPMの頻度は5~10%です。一方、日本人のPMの頻度は1%程と報告されており、欧米人と比べて低いです。このように人種によっても変異の頻度に差があるのです。
CYP2C9は、抗てんかん薬のフェニトイン、抗凝固薬のワルファリン、経口糖尿病薬のトルブタミド、ジクロフェナクをはじめとする非ステロイド性抗炎症薬の代謝に関与します。フェニトインについては、この遺伝子変異をヘテロ接合体としてもつ患者のフェニトイン最大代謝能力は野生型をホモ接合体としてもつ患者より33%低下していることが明らかにされており、ヘテロ接合体でも常容量の投与で血漿中のフェニトイン濃度が中毒域に入る可能性があります。日本人では、欧米人と比べてCYP2C9の変異型の頻度は低いものの、VKORC1の変異型の頻度は高いため、ワルファリンの血中濃度が低くても、効果がみられる場合が多いです。しかし、我が国では、ワルファリンの投与設計において、これらの遺伝子診断は実用化されていません。
このように、人種によって、代謝のされ方が遺伝子によって違ってくるので、投与量も考えなくてはなりません。
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